欧米型医薬分業に関する教育と薬学教育協議会の使命

永井恒司

1. 国際標準的な医薬分業の教育

 薬学教育協議会の最も重要な使命は、薬学・薬剤師職能の理念である医薬分 業に関して薬学教育を適正にコーディネートすることにある、と考える。

最近、病院の院外処方せんの発行が多くなってきたことから、医薬分業率が60%に 達したと言う薬学関係者すらいる。

しかし、後述するように、医師は調剤を行わない 欧米型の医薬分業に照らせば0%だと言うのが正しい。1240年、シチリア王国の王フ レデリックII世(後にドイツ国王)により法制化されたヨーロッパの医薬分業の3原則は、

1.医業と薬業を完全に分離し、両者が仕事上の関係を結ぶことを禁止する

2.薬業を公的に監督し、義務違反をした薬剤師を罰する

3.医師は処方せんを発行し、薬剤師が調剤することを義務付ける

である(“A History of Pharmacy in Pictures,” Copyright 1953: Robert A. Thom, 所蔵:Park, Davis & Company、複写所蔵:名城大学薬学部薬学教育開発センター)  つまり、わが国の分業(欧米人は「Iyaku-Bungyo」と呼ぶ)は医師が調剤できるか ら 欧米型の医薬分業とは全く異なる。

わが国も医制が生まれた当初は薬剤師しか調剤できなかったが、“医師は自分の 患者には調剤できる”という提案が医師長谷川泰氏によりなされ、それが安易に受け 入れられたため、医師法第22条(及び歯科医師法第21条)の「ただし、患者又は現 にその看護に当たっている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合、及 び次の各号(省略)の一に該当する場合においては、この限りではない」という例外規 定が生まれた。薬剤師法第19条にも同様に記されている。

これにより、医師及び歯 科医師なら薬剤師と同じように調剤がでる。これが発展して、わが国に特異な医師 の上位性が医療全般に行き亘り、薬剤師は医師に従属する立場に置かれるように なった。

昨今、病院の薬剤部長職を医師が占める例が目立ってきているのも根源は そこにあると考えられる。この事実を薬学教育において次代の薬剤師に明確に伝える べきである。

2.薬剤師は医療における言わば監査役であることの教育

 本来、薬剤師の調剤権は「医師の処方せんのレビュー」と「薬剤調製・交付」とか ら成る。しかるに、わが国では医師の処方せん通りに「薬剤調製・交付」するだけが 調剤であるかのごとく捉えられている。このことから薬剤師でなくても医師なら「調剤 」ができ、日本型の「Iyaku-Bungyo」に発展したのであろう。

 “To error is human” という言葉があり、人は間違えることから逃れられない。そ のため同一人によるチェックの繰り返し(ダブルチェック)がよく行われる。それを更に 間違えを限りなくゼロ(ZD, Zero defect)にするために、異なる2人によるチェックが 行われる。これがクロスチェックであり、人類が叡智により編み出した手法である。

医薬品の製造においては、 GMP(医薬品の製造と品質管理に関する基準)によ り製造部門と品質管理部門は完全に独立してクロスチェックを行い、ZD(Zero Defect)を目指した相互監視機構が法制化されている。同様に医療の現場にお いて薬剤師の調剤行為として行われる処方せんのチェックは、まさにクロスチェック で あり、 “医療ZD”に向けて構築された相互監視機構つまり欧米型の医薬分業 である。ここに薬学・薬剤師のアイデンティティが存在することを教育しなければなら ない。

3.薬剤師を監査するのは自身のEthics(薬剤師綱領)であることの教育

 上述のように、薬剤師は患者の安全確保のため、医療における言わば監査役とし て、医師の処方せんをチェックする。しかし、その薬剤師をさらに監査する者はいない。 そこで、薬剤師の行為をチェックするのは薬剤師自身の倫理(Ethics, 薬剤師綱領) である。つまり、絶対に不正行為はせず、過失をゼロに抑え、患者のために最善を尽 くすという薬剤師の倫理感が拠りどころになる。

 辞書ではEthicsは倫理と訳されているが,薬剤師綱領のことであり薬学用語である。 このことは、薬剤師のチェックを経る医療用の医薬品のことを“Ethical drugs”と呼ぶ ことからも納得できる。 つまり、“Ethics”は薬剤師の生命であり、医薬完全分業と 不可分の関係にあることを物語っている。欧米では、薬剤師が最も頼りになる職業 とされており(“Pharmacist: Great No.1”)、Ethicsがその基盤になっているこ とが伺える。Ethicsを身に付けた薬剤師は一朝一夕には育たない。そのためにも、薬 学教育年限を6年に延長する必要があった。

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