塩崎厚労相  分業の原点に立ち返る 「病院前の景色を変える」(2015.05.22の記事)に関する投稿

この表題記事について、既に貴重な投稿があり、感銘深く拝読しました。これは記名投稿であります。

時あたかも、公益社団法人日本薬剤学会30周年記念学術集会が、5月20〜23日に長崎で開催され、その中で、計15の フォーカス・グループ(FG)のセミナーがありましたが、FG「医療ZDと完全分業」で表題記事に深い関係のある討論が行われま した。特に「分業の原点に立ち返る」ことについて、表題記事の「門前薬局」の問題は、その是非の議論は別にして、「分業の 原点」とは本末転倒であるように感じます。もし詳しいことお知りになりたければ、いくらでも資料を提供させていただきますが、 以下に要点を記させていただきます。

1. 分業(完全分業)の原点(1):「医師が処方し薬剤師が調剤する」分業(完全分業)は、紀元前に人類の英知から発 祥し、1240年に法律で定められて以来770年その原理が否定された例はなく、先進国では今日まで医療の根幹を成し て来ています。医師と薬剤師両者の存在が不可欠である所以もここにあります。このことが、表記記事では明示されて いないように感じました。日本はG7(ロシアを含めればG8)及び他の先進国の中で、分業(完全分業)が実施されていな い唯一の国であります。完全分業は、"安全性"を"利便性"より優先させる文化であり、日本のように、これが実施され ないのは、"利便性"を"安全性"より優先させる文化のためである、というのが私達の立場であります。つまり、完全分業 は、その国の"民度"の指標であり、日本は経済的に第一級の国になったとしても、第一級の文化国家であるとは認めが たいこと、国の内外に自信をもって公言できます。

2. 分業(完全分業)の原点(2):分業は「人の生命に関わる薬を一人の人物に任せるのは危険である」という、王の毒殺 の防止策に起因していると言われておりますが、日本でも同様に大名の毒殺の防止のために、"お毒味役"が置かれた 歴史があります。このような危険防止の機構が庶民のレベルにまで及んで来たのが完全分業であります。

3. 分業(完全分業)の原点(3):分業先進国での「医師は調剤しない」は、まさに上記1に述べた、"安全性"を"利便性" より優先させる文化であります。日本の、医師法第22条、歯科医師法第21条及び薬剤師法第19条の例外規定による、 「医師の調剤」容認が、126年もの長期間存続し恒久法化していることは、"利便性"を"安全性"より優先させる文化で あり、日本の「薬剤師は医師が居れば要らない」ステータスに固定化されています。一方、日本の憲法・医療法・薬剤師 法(主規定)・学校教育法には、薬剤師は社会にとって不可欠の存在である、という国際普遍の原則が記述されており ます。つまり、「医師の調剤」はこの原則に反するものであることは明白であります。

4. 上記3から、「医師が処方し薬剤師が調剤する」完全分業が形成されて、先進国では厳しく保持され、「医師は調剤し ない」ことが当たり前になっています。日本の分業(任意分業)には医師の調剤が含まれており、"院外処方箋率"と言う べきところを"分業率"という言葉が、厚生労働白書にも使われております。このようなことは、分業先進国には起こり得ま せん。「医師の調剤」は、診察を本業する医師が薬を売ることであり、恥ずべき行為であるとされている位だからです。勿 論、私達薬剤師も真の薬剤師とは言いがたい面が多々ある、ことを正確に述べねばなりません。

5. 分業(完全分業)の3必須条件は、@「医師は調剤しない」、A薬剤師は、公正完全な「処方監査」を行う、 B薬剤 師の公正完全な「処方監査」の裏付けとなる「薬剤師Ethics」が完全分業から生まれ育つ、ことであります。これらの何 れもが欠落していますから、究極てきには、真の薬剤師は存在しない、と断言できます。薬剤師Ethicsは、薬学教育の 講義で、充分に身につくという意見もありますが、完全分業のもとでの、薬学部実地研修、生涯教育及び実務経験に よって身につく薬剤師の職業基盤であります。完全分業国でない日本では、これが育っていない、のがその証拠あります。

6. Gallup調査で、「薬剤師は市民から頼られる職業No.1」であります。日本では上記4の、3必須条件が欠損しており、 一般に薬剤師がこのような高い社会評価を受けたことはありません。完全分業が実施されて居る国と、そうでない日本 との差以外に理由は見当たりません。調剤は、「処方監査」と「薬剤調製作業」とからなり、完全分業国では、「処方 監査」が主務であるという認識に対し、日本では、「薬剤調製作業」が主務であるという認識が強いのが特徴でありま す。つまり、調剤は、医師の処方箋通りに薬剤調製作業するだけでありますから、医師にもその作業が可能であると判 断され、「医師の調剤」が容認されるようになりました。

7. 上記6のように、完全分業では調剤は、「処方監査」が主務でありますから、被監査人の医師は監査人の薬剤師の業 務を兼ねること許されないことが鉄則であります。これは社会一般の監査機構(例えば、執行役員と監査役)と共通で あります。日本の「医師の調剤」には「処方監査」がありませんから、患者に投与された薬の内容は、診察医だけが知っ ているという"閉鎖事象"であり、可視化が進む社会に反対するものであります。

8. 完全分業では、公正で完全な「処方監査」のため、医師・薬剤師は互いに独立であることが求められます。従って「処 方監査」を主務とする薬剤師の主任は、Chief-pharmacistの名の通り薬剤師であることが必須ですが、日本では、 病院薬剤部長を医師が占める例が珍しくありません。これは、完全分業ではなく、「医師の調剤」を容認し、「薬剤師 は医師が居れば要らない」存在で、"利便性"を"安全性"より優先させる文化の所産であり、国際的に実に奇異な事 象として捉えられております。

9. 薬剤師では、薬剤師Ethicsを身につけ、OTC (Over-the-Counter) drugs を用いてセルフメディケーションのキーパ ーソン(かかりつけの薬剤師)として、医師に並ぶ医療職であります。そして上記4に述べたように、「薬剤師は市民から 頼られる職業No.1」であります。日本でも"かかりつけの薬剤師"の普及を促進させる施策が動き初めておりますが、 "利便性"を"安全性"より優先させる文化からの発想であり、完全分業国の真の"かかりつけの薬剤師"と同等ではな いと言えます。これには、OTCを買うとき、薬剤師と相談する一般市民は2%しか居ない現状(調査結果あり)から脱出 するすことが不可欠であります。そして、何よりも完全分業を達成させる必要があります。もし、完全分業でなくても、完 全分業国の"真のかかりつけ薬剤師"に相当する者が存在する実例があるなら示していただきたいと思います。

以上、完全分業は、"安全性"を"利便性"より優先させる文化遺産であり、それと反対の日本の「医師の調剤」について、 勿論日本が「完全分業」達成して文化国家加えられるよう願いを込めて要点を記しました。参考にしていただければ幸いで あります。

投稿者:

公益社団法人日本薬剤学会「医療ZDと完全分業」FG代表(日本薬剤学会名誉会長) 永井恒司 (2015.5.25)

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